「ぇ…?これ……」
私の目の前に現れたソレ。ソレを見ながら、私の思考は混乱の渦中を彷徨ってた。
事の発端は数分前――


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「弄月さん?ろーげつさーん?」

弄月さんを探して、物置にしていた屋敷の地下室に入ったのまでは良かったけど……

「……はぁ。此処も一度、徹底的に掃除しないと駄目かも…
 っと、今はそれよりも。弄月さーん!ろーげつ……」

ガッ――

「きゃっ!?」

不意に捕られた足。崩れる重心。
次に直面するであろう事態を予測しながらも、私にはその事態を避ける事が出来なかった。
つまり……


どがっしゃぁぁんっ!――


私は転んだのだ。それも、周りに堆く詰まれた物々を盛大に巻き込みながら。

「ぃたたた……ぁーあ、やっちゃったぁ…」

どうにか散乱した品々の海から体を起こす。
少し打った程度で大きな怪我の類は無い様だけど、目の前に広がる雑然とした光景を見ると、体より心が痛んだ。
これ、私が片付けなきゃいけないんだよね……

「ぅぅ……私、弄月さんを探しに来ただけなのに……」

とはいえ、この惨状をこのままにしておく訳にもいかず、私は急遽、『物置の掃除』という名誉ある大任を神様から仰せつかってしまった。

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「よしっ!とりあえず、こんなものかな?」

目に付く物をある程度片付けて、作業に一区切りつけた。
これで私が崩してしまった時よりかは、少しは綺麗になったと思う。
本当はもっとキチンと掃除したかったんだけど、これ以上やったらそれこそキリがなくなっちゃう。

「やっぱり今度、みんなでちゃ〜んと掃除しないと……」


コツッ――


「ん?」

突然足に伝わる、軽い衝撃。視線を足元に移すと、私の足が何かを蹴飛ばしてた。
疑問に思って、足物に転がったそれを拾い上げる。すると、何か細長い箱である事が分かった。

「片付け忘れてたのかな?」

確かに、目に付くものを片付けてただけだから、見落としていたのかもしれない。
ならこれを仕舞って、さっさと片づけを終わらせてしまえばいい。


……そう思った。そう考え至る、はずだった。


「……これ、何が入ってるんだろ?」

この物置の品々は、その大体が弄月さんがどこからか持ってきた代物だ。
これもそのうちの一つに違いない。
でも、私はそれらの中身を知らない……というか、気になりもしなかった。
第一、いくら物置に放り込まれているからといって、人の物を勝手に見るなんて趣味が悪い。
悪いはずだけど……だけど、今は……

「ちょ、ちょっとくらいなら、いいよね…?」

一度湧き出した好奇心を止められず、葛藤という葛藤さえ起こらぬまま、私は好奇心[それ]にあっという間に流されてしまった。

「……そ、そう!いづれ此処を片付けるんだから、どんな物があるのか知っておかなくちゃいけないし…!うん!」

自分に言い聞かせるように、思いついた言い訳をわざとらしく言い放って、手に持った箱を直視する。


トクン、トクン――


まるでイタズラをする前のような、高揚感と恐怖感。それらが入り混じった様なおかしな感覚が、私の胸を小さく鳴らし、手を震わせた。
その感覚だけで、手に持ったその箱が、まるで宝箱か禁断[パンドラ]の箱のようにも思えてしまう。


トクン、トクン――


「そ、それじゃぁ……」

パカッ――

震える手が箱の蓋にかかり、呆気無いほどスンナリと開け放つ。

弄月さんが拾ってくる物だ。私が見ても訳の分からない物だったり、どうしようもなく下らない物だったり、そんな所なんだろう。
私は得体の知れない箱の中身に興味を抱き、好奇心とちょっと悪戯心を満たして、中身を見て『つまらない』とばかりに嘆息を付き、蓋を閉める。それで終わりだ。



……そう。
そんな物なら……良かったのに。


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「ぇ…?これ……」

トクン、トクン――

箱に収められていたものは、私が見ても訳の分からない物ではなく、下らない物でもなかった。

白く無機質な基部から生えた、長太い桃色の棒。
その棒は、表面を覆う出っ張りや溝でいびつに模られていて……そして、棒の先は一回りも大きく膨らんでいて……


つまり、これは……

「ば、
“バイブ”って奴、ですよね……」


トクン、トクン――


見れば分かる。というか、見ないで分からない方がおかしい。
性具。バイブレーター。淫具。大人のオモチャ。
いくら世情に疎い私でも、そのくらいは識っている。


トクン、トクン、トクン――


「な、何でこんなものが……」

無意識に口を突いて出る言葉が、それ以上の思考を遮り誤魔化す。

私の理性が、必死に疑問の矛先を変えようとする。

「ほ、本当に仕方ないですね、弄月さんは! こ、こんな趣味があったって、私は別に平気なんですよ!? べ、別に引いたりしないし、趣味は……人それぞれだし……」

根拠の無い追求と弁明。それでもしないわけにはいかない。
気付いてしまってはいけないから。
気付いてしまったら、歯止めが利かなくなってしまうから……

「こんな……こんなの…」



トクン、トクン、トクン、トクン――



この胸の鼓動が、意味する気持ちに。


「……ぁ、やわらかい…」

いつの間にか私は、箱からバイブを取り出し、その手に取って観察していた。
男性器を模したソレの、柔らかい感触……
緩やかに反り返った野太い陰茎……
ぷっくりと膨らんだ艶やかな亀頭……
くっきり浮き出た筋の一本一本……




ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――



「……はぁ…はぁ……」

いやらしい……
私の中で生まれたソレに対する感想は、その一言に尽きた。
その証拠に、
私の息遣いも、鼓動も、自分で分かるくらい激しくなってる。


「……はぁ、は、ん……ちゅ、ぷっ、…」

見てるだけじゃ……いや……
バイブをそっと顔に近づけると、吸い寄せられるように唇を這わていた。

(やだ……キス、してる… 私、バイブに……おちんちんに、キスしてる…)

さっきまで笑い飛ばそうとしていたソレに、接吻[くちづけ]する自分……
そんな自分が酷く惨めで、ひどく浅ましくて、

ひどく、いやらしくて……

……駄目だ。こうなってしまっては、もう誤魔化せない。
気付いてしまったのだ。
私はソレに……
その色に、その感触に、その形に、発情させられたんだと。

それを認めたと同時に、私の中の
[こうきしん]が、鎌首をもたげた。



(これを使っちゃったら……どうなっちゃうんだろう…?)





これを、使う。
それはつまり、これを、このバイブを入れてしまうということだ。
私の、
性器に。膣に……私の、おまんこ、に……


(きっと……私、すっごくいやらしくなっちゃうんだ…… 
この太いカリでおまんこの肉押し拡げられて、バイブに子宮の入り口までコンコンってされて……私、きっと……きっとおかしくなっちゃうんだ…)


ゾクゾク!ゾクッ、ゾク!――

そんなことを妄想するだけで……
淫らな想像が脳裏をよぎるだけで、全身が総毛立つ。


「…ん、むぐ…ちゅ……ぷはぁ…… ぃ、いいよね…?ほんのちょっと……ちょっとだけなら、いいよね?」


今からしようとしている事に、
『ほんのちょっと』もなにも無いというのに、この口は……
キスだけでは飽き足らずに、
手にした淫具[ソレ]を夢中で舐めしゃぶっていたこの口は、そんなことを[さえず]っている。

誰が応えてくれるわけでもないのに。
誰に答えを求めてるわけでもないのに。
そんなの、ただの迷ってるフリ。
そんなの、ただの逃げ口上。

どうするのかなんて、とっくに決めてるくせに。





ぬちゅッ、ズニュ!……ぐぷぷ、ずチュッ!!

「んぐっ…!? くぁあぁぁぁぁ……っ!! 入ってる…!?
ぁそ、こぉ……あそこにぃ…ぉ、おまんこに、バイブ……
おちんちん入ってくるっ!!」


湧き上がる
[こうきしん]に、勝てるはずが無い。いや、初めから抗おうとすらしていない。
濡れそぼった私の秘所は、少しばかり抵抗を感じた程度で、
よだれまみれの野太いバイブを根元まで飲み込んだ。


「っく、ぁ……っはぁ、はぁ…ん、ぁ…ふ、かぃ…深いよぉ……!おちんちん、いっぱいなのぉっ!!」


挿入の悦びにビクビクと震えて歓喜する四肢と淫核。
わざと卑猥な言葉を選び出して、それを吐き出す口。
押し入ってきた陰茎に、一気に拡げられた媚肉の壁。
野太いソレを決して離すまいと必死に咥え込む膣口。その隙間からだらしなくあふれ出す愛液。
自分のよだれに、そして愛液にまみれた亀頭とキスする子宮口。
私は……私の体は、こんな玩具[まがいもの]のオスにさえ、悦ばせられている。
そんな卑しく下品な自分に、私は……
興奮した。


「んぁぁぁ!っ…はぁ…ぅ! く、ぅん……ま、だ……まだぁ…」


止まらない。止められない。止まりたくない。
もっと、もっと……

「もっとぉ……もっと、してぇ……」

四肢の緊張で震える手が、バイブの底面に付けられたスイッチに触れる。


カチッ――






ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!!――

「ひぅ!? ぃあぁぁぁああぁっ!! あっ、あぁっ!!
暴れてるっ!? 太いのっ!ぶっといがぁ!チンポが膣内[なか]で暴れてるぅ!!!」


性器の中で乱暴に暴れまわる淫具。
その快感に、私の体と心はより一層、悦びの声を上げた。

「ふ、震え、ちゃう!? おまんこ、ふるえひゃうぅーっ!!!」


子宮口と密着したバイブが振動する度に、私を狂わせていく。
膣口の隙間から溢れていた愛液は
もはや垂れ流しになって、泡立ち、飛沫をあげた。


「んぁ!ぁはぁぁっ!!
ぃ、イクッ!? だめぇ!きちゃうっ!? ぉ、おっきいのきちゃうぅっ!! イっちゃうぅぅーーッ!!!!」



ビクンッ!ビク、ビクン!!――


一段と全身を張り詰めさせて、私は絶頂の波に酔いしれた。
淫猥なまでの情欲と、暴力的な快感によって、私の欲求[ほんのう]は満たされたのだ。


……満たされた、はずなのに。


「ぁぐぅぅぁっ!! ま、まだぁ!まだ暴れてるぅぅ!? だめだめ!ダメぇっ!!
イクッ!またイクゥッ!? 壊れちゃう!! ゎ、私こわされちゃう!おまんここわされひゃうぅーーーッ!!!!」


ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!!――


停まらない。停められない。停まってくれない。
悦に悦ぶこの躯は、玩具[まがいもの]のオスを停められない。
終わらない振動は、私の膣を、子宮を、心を嬲り、私を快感の頂に登りつめさせる。
何時までも、何処までも、何度でも……


---------------------------------------


「一体何処に行かれてしまわれたんでしょう…?」

「せっかさま、まいご」


「案外、マスターに愛想尽かして出て行っちゃったとか!」


「もぅ、こんな時にやめてよ!お姉ちゃん!!」


「くーねえさま、ふきんしん!」


「あー、ほんの冗談だって」








遠くの方で、誰かの声が聞こえる……

「ぁはぁぁ…おまんこぉ……いいよぉ…」

ヴヴヴヴヴ――

何だか……懐かしいような…きがする……こえ……

「ぁ、あんっ、ぁ……もっ…とぉ……もっと、ちんぽぉ…おチンポしてぇ……」

ヴヴヴヴヴ――

あれは……たし…か……

「ゃ、ん…ぁ、ああ……またぁ、またキたぁ…!
いっひゃうぅぅ…!おまんこイっひゃぅぅぅ…!!」






ガラッ――




ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!!――


「……へんなおと。へんな、におい」
「うん、でも何の…… ……えっ?せっ、雪花様っ!?」
「紫!マスターを呼んで来て!早くっ!! 雪花様!雪花様ッ!!」




……好奇心で開けてしまった、小さな箱。
しかし私が開けてしまったのは、本当に
禁断[パンドラ]の箱』だったのかもしれない……



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